メメント・モリ

2011/05/07(Sat) 23:07
日々のつれづれ

ベン・ウィショー君が好きだという、ミュリエル・スパークの「死を忘れるな」を読了。
最近再評価の機運が高まる女性作家チャーミアンとその夫ゴドフリー、彼らの友人知人、召使い、馴染みの退職刑事等出てくる人々はほぼ全員が老人。最近、彼らは皆不思議な電話を何度も受けていた。その電話とは、誰かは名乗らずただひとこと「死を忘れるな」と言って切る、というもの。相手の声は人によって違う、知的な話し方だったわ、いや下品な男だよ、老人だ、いやいや若い声だった等等。例えばチャーミアンは冷静に受け止めていたが、ゴドフリーや彼の妹は心底震え上がっておびえていた。いったい誰の仕業だろう?財産狙いの人間なのか、恨みを持つ者なのか、あるいは死神か。
「死を忘れるな」とは皮肉なものである。彼らは皆人生の最終コーナーを過ぎている。死について、嫌でも考えざるを得ない年齢・状況のはずだ。言われなくてもわかってるよ、と言い返したっていいはず。
しかし実際には逆で、チャーミアンやモーティマー元刑事は別として、大抵の人間が見ざる聞かざる言わざるの態度だ。だから気に障るのである。不安になるのだ。取り外したはずのベルを誰かが勝手に戻して、聞きたくないのに鳴らしている、かんべんしてちょうだい。
人生最後なのだから心穏やかに過ごしましょうとか、今までのあれこれは水に流して仲良くしましょうとかいうのとも無縁な人々。誰それの不実の過去を知って脅す人、雇い主の不貞をその夫に暴露する元家政婦、遺言状を書き換えて相続人から外すわよとちらつかす人、知人が怒るような内容を敢えて回想録に書いて雑誌に載せる人。『誰にも言わずに墓場まで持って行く』というフレーズは彼らの脳裏には存在しないらしい。
そういう彼らの描写が大変ヴィヴィッドでシニカルでコミカルなので、とても面白い。チャーミアンの元家政婦テイラーが入院する公立病院の老人病棟での日々の会話などは、日本のドラマにも出てきそうなくらい俗っぽくて、声を出して笑ってしまった。
電話の主は最後まで不明なままだ。そして忘れても覚えていても平等にそれぞれに死が訪れる。ひとり高みの見物を決め込んでいたアレック・ウォーナーにも運命の鉄槌が下され、友人たちの焦りや恐れをデザートのように楽しむことができなくなる。(彼らを詳細に観察して記録したノートが火事で焼けてしまうのだ。)このくだりを読んで、電話は死神からだったのかなあと思ったりもした。
大人の屈折した笑い満載のこの不思議な小説を、若いベン・ウィショー君はどう楽しんでいるのだろう。彼の感性のユニークさが伺えて実に興味深い。
それはともかく、大変面白い物語だった。大満足である。

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