刑事ヴァランダー2#3 五番目の女

2010/11/29(Mon) 11:49
WOWOW

男が公開処刑スタイルで殺される事件が連続して起こる。その死体はどちらも残酷で哀れなものだ、即死ではなく相当苦しみながら死んだことも見て取れる。引退後一人暮らしのホルゲ・エリクソン、趣味はバードウォッチング。花屋経営のユスタ・ルングフェルト、高価なランを収集。一見、彼らには繋がりがないように見えるが、ヴァランダーの直感は同一人物による犯行。続いて、国際企業役員男性の死体が加わる。それもまた、もがき苦しんだ後の死であった。
ヴァランダーの父が亡くなる。このまま施設で終わりを迎えるのはいやだという父を実家へ連れ帰った後すぐのことで、ヴァランダーは信じられない。もうしばらくは大丈夫そうに見えたのに。嘘だ、そんなはずがない。言いたいことはまだたくさんあったのに時間切れだ…。
悲しみと困惑を抱えたまま彼は捜査に突っ走る。常に事件にのめりこみ過ぎるきらいがある彼だが、今回はいつもより過剰で必死だ。彼が殺しのターゲットになっているわけではないのに、彼は追われているようにかつ責められているように見える。

Wallander (Faceless Killers / The Man Who Smiled / The Fifth Woman)
B003X82D1K


男たちの妻や恋人は誰一人として男の死を悼んでいない。死んでくれてほっとした、せいせいした、と言われるたびにヴァランダーはまるで自分に向けられた言葉のようにショックを受ける。銃で撃たれるような衝撃だ。
誰かの手によって惨殺され酷い死体をさらされた男たちは、死後もなお痛めつけられる。それほどの仕打ちを受けねばならないような罪を、彼らは犯したのだろうか?
ヴァランダーの父は心の底では息子の行末を案じていたが言葉にできず、ヴァランダーも同じだった。彼は元妻や娘リンダを深く愛していたが、やはりうまく伝えられていない。大切な人々と心を通わせることに失敗している自分が死んだ時、彼女たちは自分の死を悼んでくれるだろうか。

男たちは妻や恋人を虐待していた。そしてその女たちは被害者の会のミーティングに出席していた。会の出席者の一人がエリクソンに囲われていた女の娘であることが判明する。彼女はまず母の復讐を果たし、他の女たちに代わって『処刑』を行っているのだ。出席メンバーは他にもいる、つまり処刑はまだ続いている、次の被害者を突き止め彼女を止めなくてはならない。

花屋の店長バンニャだけは他の女たちと違っていた。彼女はユスタに傷つけられはしたが彼への哀れみも残っていた。彼女はたおやかで、瞳が美しい。
ヴァランダーがバンニャに惹かれたのは、その優しさに救われたからか、憂いのある顔に一目惚れしたのか。

ヴァランダーは父の油絵を一枚自宅へ持ち帰る。父は生涯通して森を描き続けた、その隅にはライチョウが一匹描かれている。ライチョウは何の象徴だろう、森で彷徨い疲れ休んでいる自分、静かに隠れ住んでいる自分、あるいは森に囚われている自分。絵の色調は暗い、木々は曲がりくねった迷路のようにも見える。
バンニャの家に父の絵があるのを見て、ヴァランダーは驚く。彼女が住む前から掛かっていたとはいえ、その偶然に彼はなんとなく嬉しそうだ。最後に会った時父は「誰か相手を見つけろ、人は一人では生きられない」と言っていた。お世辞にも明るいとは言えない父の絵を、彼女はずっと飾り続けてくれている。バンニャは自分をわかってくれるかもしれない、彼女とならうまくいくかもしれないと彼が思ったかどうかはわからないが、父の絵がヴァランダーを後押ししてくれたと言ったら言い過ぎだろうか。

犯人イヴォンヌの標的が判明し、犯行を止めようと駅へ急行するヴァランダーとマーティンソン。ヴァランダーは腕を撃たれながらも必死で彼女を説得しようとする。君の悲しみと怒りはよくわかる、でも男たちを殺しても君は救われない。死んだ人間は戻らない、君はみんなの分も生きなきゃだめなんだ。
イヴォンヌをなんとか抱きしめ、彼女はヴァランダーの胸で涙を流す。彼の説得と慰めは成功したかに見えた。しかし銃声が響く。ヴァランダーの顔に衝撃が走り彼の蒼白な顔が歪む。イヴォンヌは死んだ。
怒りと狂気にまかせ殺人に走りはしたが、彼女も被害者だったのだ。なんとかして救ってやりたかったのに出来なかった、深く慟哭するヴァランダーの姿は痛切である。

このとき、ヴァランダーはイヴォンヌと共に一度死んだ。そして彼は生還し、バンニャと共に父の墓参りへ行く。ずっとはめたままだった結婚指輪を父の墓石に置き、「さよなら父さん」と別れを告げる彼の顔は穏やかだ。彼がこの先誰と人生を共にするのか-バンニャがその人となるのか-はわからないが、一つの山を昇り終えたことだけは確かだ。重過ぎる荷物は降ろせばいい、いっしょに運んでくれる人を見つければいい。

五番目の女 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル 柳沢 由実子
4488209106

trackBack(1) | Comments(2)

Page up▲

Post a Comment

comments

2010/12/02 11:39 [ 編集]
カクテキ MAILURL

犯人を抱きとめて無事解決したかに思えたのに…。
切なすぎる自害でしたけれど、それを含めて受け止めるヴァランダーの姿こそが見たかったのかも。
バンニャに突然電話するのもまた悪い癖が…とも思いましたが、彼女にも受け止めたい心が見えてましたので、これまでとは違ったよい展開になるのかな?と希望が感じられましたね。
ちょっと残念な気もしますが(笑)。

2010/12/02 18:47 [ 編集]
atsumi MAILURL

私もあれで落着したかと思ったんすよ。ああよかったって。そうは問屋が下ろさないってやつですね。
でも絶望というのはそう簡単に消えないから、ああするしかなかったんだなあ彼女は。復讐レースを始めた時点で最後は自死で終わる、と運命づけられていたのかも。
いやー深いドラマです。3はあるのでしょうかね。

Page up▲

Post a Comment

Private message

trackback

trackback URL

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

刑事ヴァランダー2 #2「笑う男」&#3「五番目の女」
笑う男 ひどい話でありました。 似たようなエピソードが「ホワイトカラー」でもありましたが、あれはいつ移植が必要になるかわからない自分の腎臓ためでもあったので…だからといって擁護する余地はなし。 「ホワイトカラー」であえて擁護ポイントとをあげるとすると、...
ささくれた日々【2010/12/02 11:39】

Page up▲

Designed by mi104c.
Copyright © 2017 Funnybones -備忘録其の二-, all rights reserved.
Calendar
02 | 2017/03 | 03

sun

mon

tue

wed

thu

fri

sat

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

Page up▲