瞳の輝きはもう二度と戻らない。

2010/10/26(Tue) 20:42
日本未放映作

Criminal Justice (TV mini-series 2008)
仲間とのフットボール、ペナルティを決め気分は最高のベン。家へ戻りおしゃれして町へ繰り出そう。どこにでもいる朗らかで愉快な、ちょっとお気楽な青年ベンはメラニーと出会う。なにか独特な空気をまとい、少し影のある彼女にベンは戸惑い、迷いつつも惹かれ、彼女のペースに巻き込まれていく。彼女との出会いが暗黒世界への転落の始まりになるなんて、彼に予想できるはずがなかった。イカした夜にサプライズな彼女とナイスなデートで終わるはずだったのに。終わらなかった。そして地獄の日々が始まる。
見続けるのがつらかった、でも見なくてはならない。誰が善で誰が悪かなんて、簡単には決められない。人を裁く権利など本当は誰にも無い、完璧無比にイノセントな人なんてどこにもいない。
ベン・ウィショーの存在、動き、言葉全てが素晴らしい。彼を得たことでまずこのドラマの成功が決まった。
まるでOZのエメラルドシティのような刑務所、囚人たちのトップに立つのは仏陀の顔をした悪魔。ベンはその悪魔にデザートとして選ばれてしまった、一度食べたらやめられない極上の味だもの。 自分の車の調子が悪くて、つい父のキャブを借りてしまった。今回だけだから大目にみてくれるだろう。
突然乗り込んできた女の子-メラニーに降りてもらい損ねた、「ま、いっか」と思わせる何かが彼女にはあったから。
普段なら口にしないドラッグを、彼女の勧めでつい。今日だけだ、今日だけ。
今日はちょっといい気分、ハッピーなんだ。明日目が覚めたら二日酔いで頭痛がひどいだろうけど、それも半日たてば治まるさ。そう、ちょっと退屈だけどまた普段通りの生活に戻るだけ。
この時まだベンには明日があった。「夕べ変わったコと会っちゃってさあ」と友達に自慢げに話す自分を想像していたかもしれない。
しかし現実には明日はなかった。ベンの隣でメラニーは殺されていた。心臓にぐっさりとナイフ一突き、むごたらしい死体となっていた。

シリーズ1では、ベンという青年が殺人犯として逮捕され刑務所と法廷の両方で無惨にいたぶられる姿が、目を背けたくなるくらい執拗に描かれる。途中まで私はこう思っていた、『青年の成長を描くためにここまでつらい目に遭わせるなんて』と。でもこれは成長なんかじゃない。
確かにベンは強くなる。物事に動じない度胸、生き延びるための狡さが身に付く。でもその代わり人間性はずたずたに切り裂かれ、プライドは砕かれ、明るさも失われてしまう。こんなこと経験しないほうがいいに決まってる。ここを通らないと人は大きくなれない、というのであれば、大きくならなくて結構だ。
かつて輝いていた彼の瞳は暗く沈んでいる。再び輝く日がくるのかどうかもわからない。最愛の母にも「息子がやったのかも」と疑われてしまったベンは、絶望のどん底に突き落とされる。彼が周囲を再び信頼できるようになるには、長い時間がかかるだろう。

真実よりも、少しでも有利な勝利を優先させる弁護士のストラテジーに翻弄されるベン。弁護士たちにとってはやったかやってないかは関係ない。まあ多分君が殺したんでしょ?それはそれとして服役年数を少しでも短くする努力をしましょうや、人生無駄にしたくないでしょ?というのが弁護士の論理。ベンが真実を語りたいと何度言っても「それは関係ないから」と彼らは聞く耳を持たない。
彼を完膚なきまで叩きのめす検察官。彼はベンを憎んでいるわけではない。検察のルールに従ってゲームを戦っているだけだ。そのルールを知らないベンが、検察官に勝てるわけがない。

警察は多忙過ぎる。予算も人員も足りない。求められるのは効率的な捜査とスピード解決。ベンの事件は物的証拠も状況証拠も揃いすぎるほど揃っていたから、導きだされる結論が一つしかなかったのは仕方ないと思う。複数の目があれば違った展開になっていたかもしれない。でもそれは望めないことだった。BOX刑事は証拠隠匿だ怠慢捜査だと責められるが、作為的にやったわけではない。長年の経験に基づく勘と目の前の証拠群から彼なりに冷静に下した判断だったろう。彼もベンを憎んではいなかったはずだ。

公判が進むにつれて、失われたメラニーの命の意味が希薄になるというか変容していく。父親は娘のために正義が果たされることを望んでいたが、彼の考える正義と司法制度における正義は違っていた。

服役者たちのヒエラルキーや生き延びるためのストラテジー。ただ腕がたつだけでは生き残れない。全ての感覚が鋭く六感に冴え、賢いものが勝つ。グレアムのようなボスになってしまえば、外の世界よりも絶対に快適だ。なにしろ彼が王なのだから。もちろん檻の周囲には看守がいるが、グレアムにしたら看守たちは観客みたいなものだ。
服役者たちは、自分の居場所、自分の役割をなんとかして作ろうと必死でもがく。ある者は犬と化し、ある者は奴隷、ある者は強者のなぐさみものとなる。とにかく生き延びなくてはならない、ゆっくり選ぶ暇は無い。ベンはここでもまた真実を追求し、自分自身でいようと努めた。しかしそれはここでは通用しない。彼はどんどん心身を蝕まれていく。

きりがない。今日はここまで。

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2010/10/27 05:55 [ 編集]
はーや MAILURL

きゃあーatumiさん、すごいっ!もうー、奈落の底に堕ちるベンの頭の構造が見えるようです。

父親のキャブとちょっと失敬するつもりだっただけなのに…。人の人生なんて、どこでどうなるかわからない。弁護団、警察、刑務所で繰り広げられる駆け引きなどなど、息をつかせぬ展開でグイグイと引っ張られました。
また、私も改めてDVDを観たくなってきました♪

2010/10/28 08:02 [ 編集]
atsumi MAILURL

はーやさん、こんにちは。
法廷シーン、凄まじかったですね。Stone弁護士は声も姿も立ち居振る舞いも怪しいのですが、世長けていて、本当はベンのことをわかっているのだけれど敢えて本音を封印している感じが伝わってきます。過去痛い目に遭ってきたんだろうなあって。
直接の描写はなくとも、キャラクター各人の来し方を思わずにはいられない物語だったと思います。
リンゼイ・ダンカンもぴったりですね。とにかく配役がどんぴしゃ絶妙なのだなあ…。

2010/10/31 04:36 [ 編集]
Ayano MAILURL

atsumiさん、こんにちは。
気に入っていただけたようで嬉しいです!

必死にもがいてもどうせ無駄、だったら今ある状況で折り合いをつけていくしかない…そうやってみんな生き延びていく。それは刑事や弁護士たちもそうだし、刑務所でのベンもそう。
法曹界にまだ馴染んでいない若いフランセスは「諦める」ということを身に付けておらず、彼女の行動はベテランのバリスターから見れば実に無謀で愚かなことだと思うけど、それゆえに真実に辿り着くことができたのはこのドラマにおいて唯一の希望というより、むしろ経験を積めば積むほど人は真実から遠ざかるのではという救いようの無さを感じてしまいます。
傍目にはベンは元の生活に戻れたように見えても、実はすべてが変わってしまった。お母さんの言葉がまた………(T T) ベンの心も家族ももう元には戻れないんですよね…はぁ~。。。
これが日本で放送されたらもう思い残すことはありません(ほんとか?)
願わくば、またアメリカでリメイクとか映画化とか余計な話が耳に入ってきませんように…(苦笑)

2010/11/01 09:30 [ 編集]
atsumi MAILURL

Ayanoさん、こんにちは。
Ayanoさんと上記のはーやさんのおかげで、この傑作を見ることができました。本当に感謝しています。めったに出会えないですよ~こんな凄いドラマには。あー買ってよかった。

>経験を積めば積むほど人は真実から遠ざかるのではという救いようの無さを感じてしまいます

さすが!そう、そうそうなんです。
真実は決して優しくないですから、そこから目を背け、離れたほうが楽に生きられる、出世できる、金儲けできる。それが悪いというわけではありません、賢い生き方ではあるし、ベンが置かれた極限状況においてはそうじゃないと生き延びられない。
目の前に神がいて試されてるような気がします。傍観者、鑑賞者として気楽な気分では見られないドラマなんですよね。
つーことは日本で放送される可能性低いかな…。

冒頭で殺されるメラニー役も、母親役のジュリエット・オーブリーも印象的でした。
見張り番の女性警官が読んでた本が「アラバマ物語」でしたね、フィンチの時代と今のどちらが良い悪いは言えませんが、ああなんとも‥(涙)。

アメリカでリメイク!絶対にイヤですが、ありそうですね~全然関係ないのですが昨日「2012」という超駄作をテレビで見てしまい、なんていいかげんな脚本なんだろうと。こういう『オリジナル』しか作れないのであれば、そりゃリメイクや続編に走るでしょうよ。大作が必ずしもヒットしなくなっているので余計。

Ayanoさんは2をご覧になっていますか?役者がこれまた豪華ですが1ほどのものはないのかなもしかして。密林のレビューを読んでいるとそんな感じがします。一応ぽちっておこうとは思いますが(笑)

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